アサーション研修とは、自分の意見や要望を一方的に押し通すのでも、反対に我慢して飲み込むのでもなく、自分と相手の双方を尊重しながら伝えるコミュニケーションを学ぶ研修です。
企業では、上司と部下のコミュニケーション、部署間の調整、会議での意見交換、依頼や断り方、フィードバックなど、さまざまな場面で活用できます。
ただし、アサーション研修を「言い方のテクニックを覚える研修」だけにすると、学んだことが職場で使われないこともあります。安心して意見を伝えられる職場環境や、上司の受け止め方、業務上のルールと組み合わせて考えることが大切です。
この記事では、企業や組織でアサーション研修を検討している方に向けて、研修の目的、一般的な内容、進め方、導入時に確認したいポイントを整理します。
- アサーション研修の目的と職場で期待できる役割
- 研修で扱われる代表的な内容と演習方法
- 対象者や職場の課題に合わせた研修の進め方
- 研修だけに頼らず職場環境と組み合わせるポイント
アサーション研修とは

アサーション研修を導入する前に、まず「アサーションとは何を目指す考え方なのか」を整理しておくことが大切です。
アサーションは、一般に自分の考えや感情、希望を大切にしながら、相手の考えや権利も尊重して伝えるコミュニケーションの考え方として扱われます。
たとえば、仕事を追加で頼まれたときに、本当は対応が難しいのに「大丈夫です」と引き受け続けることがあります。反対に、「そんな仕事は無理です」と強い言葉で拒否すれば、相手との関係が悪化するかもしれません。
アサーティブな伝え方では、次のように状況と自分の希望を整理します。
「今日中にAの資料を仕上げる必要があるため、この作業を今から引き受けると両方が遅れる可能性があります。こちらは明日の午前中からでもよいでしょうか」
ここでは、単に「上手に断る」ことが目的ではありません。
- 自分が置かれている状況を伝える
- 必要なことを具体的に表現する
- 相手の事情も確認する
- 必要であれば代替案を考える
という対話を通して、双方が納得できる選択肢を探しています。
そのため、アサーション研修は「自己主張を強くする研修」と考えるより、必要なことを適切に伝え、相手の話も聞きながら仕事を進めるためのコミュニケーション研修と捉えるほうが実際の目的に近いでしょう。
アサーション研修の目的
企業でアサーション研修を行う目的は、単に話し方を改善することではありません。職場で起こっている具体的なコミュニケーション課題と結びつけて考える必要があります。
意見や要望を伝えやすくする
職場では、「こんなことを言ったら評価が下がるのではないか」「上司に反対意見を言いにくい」「忙しそうな相手に相談できない」と感じる場面があります。
一方で、伝えないまま仕事を続けると、認識のずれが大きくなったり、期限直前になって問題が表面化したりすることがあります。
アサーション研修では、自分の要望を一方的に押しつけるのではなく、
- 事実
- 自分の考えや困っていること
- 相手にお願いしたいこと
を分けて表現する練習をします。
これによって、「言うか、我慢するか」という二択ではなく、どのように伝えれば建設的な話し合いにつながるかを考えやすくなります。
依頼や断り方を学ぶ
仕事では、頼むことと断ることの両方が必要です。
しかし、「相手に悪いから断れない」「断られるのが嫌で仕事を頼めない」という状態が続くと、一部の人に業務が偏ったり、必要な協力を得られなかったりすることがあります。
そこで研修では、
「今週金曜日までに、この部分をお願いできますか」
「今日はこの作業まで担当できますが、追加分は明日以降で相談したいです」
など、何を、いつまでに、どこまで求めているのかを具体的にする練習を行います。
曖昧なお願いや遠回しな断り方を減らすことは、相手にとっても状況を判断しやすくすることにつながります。
フィードバックを伝えやすくする
部下や同僚へのフィードバックも、アサーションが役立つ場面の一つです。
たとえば、
「もっとしっかりしてください」
だけでは、相手は具体的に何を変えればよいのか分かりません。
一方、
「昨日の資料では、最終確認前の数値が提出版に残っていました。次回から提出前にチェック表を使って確認してもらえますか」
とすれば、人格ではなく具体的な行動について話せます。
相手を傷つけないことだけを考えて曖昧に伝えるのでも、強く注意するのでもなく、仕事上必要なことを具体的に伝えることがポイントです。
意見の違いを扱いやすくする
アサーションは、「仲良くするための話し方」だけではありません。
仕事をしていれば、優先順位、進め方、予算、スケジュールなどについて意見が食い違うことがあります。
重要なのは、意見の違いそのものをなくすことではなく、違いがあったときに、
「私はこの理由からA案がよいと考えています。B案を選んだ理由も教えてもらえますか」
と話し合えることです。
相手に同意することと、相手を尊重することは同じではありません。アサーション研修では、違う意見を持ったままでも対話できることを学びます。
「コミュニケーションを良くしたい」という抽象的な目的だけで研修を始めるより、「会議で若手から意見が出にくい」「管理職からのフィードバックが強くなりやすい」など、実際の職場場面を具体化すると研修内容を設計しやすくなります。
研修で学ぶ主な内容
アサーション研修の内容は対象者や目的によって異なりますが、基礎知識と実践練習を組み合わせる構成が一般的です。
三つの伝え方を比較する
アサーション研修では、コミュニケーションを理解するためのモデルとして、次のような三つの傾向を比較することがあります。
| 傾向 | 特徴 | 職場での例 |
|---|---|---|
| 非主張的 | 自分の考えや希望を抑えやすい | 無理な依頼でも断らず引き受ける |
| 攻撃的 | 自分の要求を優先し、相手への配慮が不足しやすい | 強い口調で指示し、反論を許さない |
| アサーティブ | 自分と相手の双方を尊重して表現する | 状況と希望を伝え、相談する |
これは人の性格を三種類に分類するためのものではありません。
同じ人でも、上司には非主張的になり、部下には強く伝えてしまうなど、相手や状況によってコミュニケーションは変わります。
研修では「あなたはこのタイプです」と決めるのではなく、自分がどのような場面でどの伝え方を選びやすいかを振り返る材料として使うことが大切です。
事実と解釈を分ける
職場の対話が難しくなる理由の一つに、事実と評価が混ざってしまうことがあります。
たとえば、
「あなたはいつも仕事が遅い」
という表現には、「いつも」「遅い」という評価が含まれています。
これを、
「今月の三つの案件で、確認予定日を過ぎてから提出されています」
とすると、まず確認できる事実について話せます。
もちろん、数字だけで話せば必ず良いコミュニケーションになるわけではありません。しかし、相手の人格への評価ではなく、具体的な出来事を扱うことは、仕事上の話し合いを進めやすくします。
自分の気持ちや考えを表現する
自分の考えを伝える方法として、「私は」を主語にして表現する方法が紹介されることがあります。
「あなたは説明が足りない」
ではなく、
「私は、判断に必要な情報がもう少しあると助かります」
と伝える方法です。
ただし、「私は」を付ければ何を言ってもアサーティブになるわけではありません。
「私はあなたが無責任だと思います」
では、実質的には相手への評価になっています。
大切なのは、自分が感じていることや必要としていることを、相手を決めつけずに表現することです。
具体的な依頼を伝える
不満を伝えるだけでは、次に何をすればよいか分からないことがあります。
たとえば、
「連絡が遅くて困ります」
だけで終わるのではなく、
「予定が変わる場合は、分かった時点でチャットに一言入れてもらえますか」
まで伝えることで、相手が取れる行動が明確になります。
アサーション研修では、
- 何が起きているかを整理する
- 自分がどう感じ、何を問題と考えているか整理する
- 相手に何をお願いしたいか具体化する
- 相手の返答を聞いて調整する
という流れで練習することがあります。
相手の話を聞く
アサーションという言葉から「伝える方法」に注目しがちですが、相手の返答を聞くことも重要です。
こちらが要望を伝えても、相手には別の事情があるかもしれません。
「明日までに対応してほしい」
「明日は別案件の締め切りがあるので、明後日ならできます」
というやり取りがあれば、優先順位について相談できます。
アサーティブなコミュニケーションは、自分の要求を通す技術ではありません。伝えたあとに相手の考えを確認し、必要なら調整するところまでが対話です。

研修で行う代表的な演習

知識を聞くだけでは、実際の職場で言葉が出てこないこともあります。そのため、アサーション研修ではケースを使った練習が重要になります。
ケーススタディ
参加者に職場で起こりそうな場面を示し、「どのように伝えるか」を考えます。
たとえば、
- 締め切り直前に追加の仕事を頼まれた
- 会議で自分の発言を何度も遮られる
- 部下に改善してほしい行動がある
- 他部署から曖昧な依頼を受けた
- 上司の説明に疑問があるが質問しにくい
といった場面です。
一つの正解を覚えるのではなく、複数の表現を比べながら、「自分ならどの表現なら使えそうか」を考えます。
ロールプレイ
一人が話し手、一人が相手役になって実際に会話する方法です。
頭の中では「こう言えばよい」と分かっていても、相手から予想外の返事が返ってくると言葉に詰まることがあります。
たとえば、仕事を断ったときに、
「みんな忙しいんだから、それくらいやってよ」
と言われた場合です。
このような返答も含めて練習すると、「断る一言」だけではなく、その後の対話まで考えられます。
言い換え練習
強すぎる表現や曖昧すぎる表現を、具体的な言葉に変える演習です。
たとえば、
「ちゃんとしてください」
を、
「提出前に数値と日付をもう一度確認してもらえますか」
と変えます。
反対に、
「もしできればでいいのですが、忙しかったら全然大丈夫で……」
という曖昧なお願いを、
「木曜日までに、この資料の確認をお願いできますか」
と明確にします。
短時間でも取り入れやすく、職場の実例と結びつけやすい演習です。

アサーション研修の進め方
研修の効果を職場で活かすには、研修当日の内容だけでなく、事前設計と研修後の実践まで考える必要があります。
課題を整理する
最初に、「なぜアサーション研修を行うのか」を明確にします。
たとえば、同じコミュニケーション課題でも、
- 管理職が部下への注意を強い表現で伝えやすい
- 若手社員が質問や相談を遠慮しやすい
- 部署間で依頼内容の認識がずれやすい
- 会議で一部の人しか発言しない
- 顧客対応で断る必要がある場面に困っている
では、必要な研修内容が異なります。
「アサーションを学ぶこと」自体を目的にするのではなく、どの職場場面を改善したいのかを先に確認することが重要です。
対象者を決める
次に、誰を対象にするか考えます。
全社員向けであれば、基本的な考え方、依頼、断り方、相談など幅広く扱えます。
管理職向けであれば、
- 指示の出し方
- 部下から異論が出たときの受け止め方
- フィードバック
- 注意や指導
- 一対一の面談
など、立場に応じた内容を増やす必要があります。
若手社員向けなら、
- 質問する
- 分からないことを伝える
- 業務量について相談する
- 上司に確認する
といった場面が中心になるでしょう。
実際の職場場面を教材にする
一般的な例だけより、自社で起きやすい場面に近いケースのほうが、研修後に応用しやすくなります。
ただし、実際に起きたトラブルをそのまま教材にすると、当事者が特定される場合があります。
個人や部署が分からないように状況を一般化し、
「納期直前に別部署から急ぎの依頼が入った」
「会議で上司と異なる意見を伝えたい」
といった形にすると扱いやすくなります。
知識と実践を組み合わせる
アサーションの考え方を説明するだけで終わらせず、
理解する→考える→言葉にする→実際に話す→振り返る
という流れを入れると、自分のコミュニケーションを具体的に見直せます。
たとえば研修を次のように構成できます。
- アサーションの基本を理解する
非主張的・攻撃的・アサーティブな伝え方の違いを整理します。 - 自分のコミュニケーションを振り返る
どのような相手や場面で伝えにくくなるかを考えます。 - 伝え方の基本を学ぶ
事実、考え、要望を整理する方法を確認します。 - ケースで表現を考える
実際の職場を想定した場面で言葉を作ります。 - ロールプレイを行う
相手の返答まで含めて会話を練習します。 - 職場で試す行動を決める
「次の会議では一度質問する」など、具体的な行動に落とします。
研修時間や人数に合わせて内容を調整しますが、短時間の説明だけにするより、実際に言葉を使う時間を確保することが大切です。

対象者別の研修設計
同じアサーション研修でも、参加者の立場によって必要なテーマは変わります。全員に同じ内容を当てはめる必要はありません。
若手社員
若手社員では、「言いたいことを強く言えるようになる」ことよりも、仕事を進めるために必要な情報を伝えられることが重要です。
具体的には、
- 分からないことを質問する
- 指示の認識を確認する
- 業務量について相談する
- ミスや遅れを早めに報告する
- 意見を求められたときに考えを伝える
などを扱えます。
特に「相談することは迷惑ではない」と説明するだけでなく、どのタイミングで、何を整理して相談するとよいかまで練習すると実務につなげやすくなります。
中堅社員
中堅社員は、上司、後輩、他部署など異なる立場の人との調整が増えます。
そのため、
- 他部署への依頼
- 優先順位の調整
- 後輩へのフィードバック
- 上司への提案
- 意見が対立したときの話し合い
などが研修テーマになります。
自分だけで完結する伝え方より、複数の関係者の利害を調整するケースが役立ちます。
管理職
管理職向けのアサーション研修では、「管理職自身がどう伝えるか」と同時に、部下が発言したときにどう受け止めるかを扱うことが重要です。
部下にアサーティブな発言を求めても、
「今そんな話をしている時間はない」
「それはあなたが考えることでしょう」
と返され続ければ、次第に相談しなくなる可能性があります。
そのため、
- 部下の意見を最後まで聞く
- 異論を個人攻撃として受け取らない
- できない場合も理由を説明する
- 指導では人格と行動を分ける
- 必要な期待や基準を具体的に伝える
といった内容も重要になります。
若手社員に「もっと自分から意見を言おう」と教えるだけでなく、管理職側にも「意見を受け取る側のコミュニケーション」を学んでもらうと、研修内容と実際の職場環境をつなげやすくなります。
研修だけでは解決できないこと
アサーション研修はコミュニケーションを見直すきっかけになりますが、職場のすべての問題を個人の伝え方で解決できるわけではありません。
職場環境の問題と分けて考える
たとえば、
- 慢性的に仕事量が多すぎる
- 人員配置に無理がある
- 上司に意見すると不利益を受ける
- ハラスメントが放置されている
- 相談しても対応してもらえない
といった問題は、社員がアサーティブに話せるようになれば解決するとは限りません。
厚生労働省も職場環境改善について、コミュニケーションだけでなく、仕事の量や質、人間関係、組織・人事労務管理、職場文化など幅広い要因を対象として考えることを示しています。
アサーション研修を行う場合も、研修で個人に変化を求めるだけでなく、社員が伝えた意見を組織としてどのように扱うかを確認する必要があります。
ハラスメント対策とは別に考える
アサーションを学ぶと、「嫌なことははっきり断ればよい」と考えてしまうことがあります。
しかし、ハラスメントを受けた人に対して、
「もっとはっきり言えばよかった」
「アサーティブに対応できなかった本人にも問題がある」
と考えるのは適切ではありません。
職場のハラスメントについては、組織として必要な防止措置や相談対応を行う必要があります。厚生労働省も、パワーハラスメントを含む職場のハラスメントについて事業主が講ずべき措置などを示しています。
「何でも言えばよい」わけではない
アサーティブであることと、思ったことをすべて口にすることも違います。
仕事では、守秘義務や個人情報、業務上の役割、相手のプライバシーなどを考慮する必要があります。
また、正しいと思っていることでも、
「普通はこうするでしょう」
「あなたのためを思って言っています」
と一方的に伝えれば、相手の考えを尊重できているとは限りません。
アサーションは「言いたいことを言えること」ではなく、何をどのように伝えることが、仕事上必要なのかを考えることでもあります。

導入時に確認したいポイント

アサーション研修を実施する場合は、研修会社や講師を選ぶ前に、社内で目的と条件を整理しておくと比較しやすくなります。
研修の目的が明確か
「コミュニケーション研修をしたい」という段階から、もう一歩具体化します。
たとえば、
- 部下へのフィードバックを改善したい
- 若手社員の相談行動を促したい
- 部署間の依頼を明確にしたい
- 会議で意見交換しやすくしたい
- 管理職と部下の対話を見直したい
などです。
目的によってケースや演習内容は変わります。
実践時間があるか
アサーションは、説明を聞くだけでは使い方を理解しにくい部分があります。
研修内容を確認するときは、
- 個人ワーク
- ペアワーク
- ケーススタディ
- ロールプレイ
- 振り返り
など、参加者自身が考えたり話したりする時間が含まれているか確認するとよいでしょう。
一方で、ロールプレイを苦手に感じる人もいます。全員の前で発表を強制するのではなく、ペアや少人数で行うなど、参加しやすい方法を検討することも必要です。
自社の事例に合わせられるか
研修の基本理論が同じでも、小売、医療、教育、IT、製造、営業など、職場によってコミュニケーション場面は大きく異なります。
実際の業務に近いケースを使えるか、事前に職場の課題をヒアリングしてもらえるかなどを確認すると、研修内容を自社の仕事に結びつけやすくなります。
管理職の関わりを決める
社員だけが研修を受けても、上司の対応が変わらなければ実践しにくいことがあります。
たとえば、部下が研修後に、
「今の業務量では金曜日までの対応が難しいので、優先順位を相談したいです」
と伝えたとします。
そこで管理職が、
「研修で自己主張を覚えたの?」
と否定的に受け取れば、学んだ内容を使いにくくなります。
社員研修と管理職研修を分ける、管理職にも研修の目的を共有するなど、受け手側への働きかけも考えておきましょう。
研修後に職場へ定着させる方法
研修を一度実施しただけで、日常のコミュニケーションがすぐに変わるとは限りません。研修後に使える仕組みを用意することが大切です。
小さな行動目標を決める
研修終了時に、「明日からアサーティブに話す」のような抽象的な目標ではなく、具体的な行動を決めます。
たとえば、
- 分からない指示はその場で一度確認する
- 追加依頼を受けたら期限と優先順位を確認する
- フィードバックでは行動を具体的に伝える
- 会議で一度は質問する
- 困ったときは抱え込む前に相談する
などです。
行動が具体的であれば、実践できたか振り返りやすくなります。
共通の言葉を職場で使う
研修で学んだ考え方を、日常の会話でも使えるようにします。
たとえば、
「事実と解釈を分けて整理してみよう」
「何をお願いしたいのか具体的にしてみよう」
という言葉が職場で共有されていれば、研修内容を思い出しやすくなります。
ただし、「それはアサーティブじゃない」と相手を評価するために使うのではなく、自分たちの対話を振り返る共通言語として扱うことが大切です。
管理職が行動で示す
職場への定着には、管理職の行動も影響します。
部下から異なる意見が出たときに、
「そう考えた理由を聞かせてください」
と受け止めることができれば、意見を伝えてもよいという経験につながります。
反対に、「結局決めるのは私だから」と毎回話を終わらせてしまえば、研修で発言方法を学んでも使いにくくなるでしょう。
もちろん、組織では管理職が最終判断をしなければならない場面もあります。
その場合でも、
「意見は理解しました。今回はこの理由からA案で進めます」
と説明することはできます。
定期的に振り返る
研修後、一か月後や数か月後などに、
- 実際に使えた場面
- 伝えにくかった場面
- 相手の反応
- 今後練習したい場面
を振り返る機会を設ける方法もあります。
研修を単発イベントにせず、実践と振り返りを繰り返す機会をつくることで、それぞれの職場に合った伝え方を考えやすくなります。
研修の評価を「参加者の満足度」だけで終わらせず、「どの場面で使えそうか」「職場側で変える必要があることは何か」まで確認すると、次の取り組みにつなげやすくなります。
アサーション研修のよくある質問
- アサーション研修はどんな企業に向いていますか
-
特定の業種だけを対象とした研修ではありません。
上司と部下の対話、部署間の調整、顧客対応、会議での意見交換など、仕事上のコミュニケーションについて具体的な課題がある組織で検討できます。
ただし、「社員がもっと言いたいことを言えるようにしたい」という理由だけで導入するのではなく、どの場面でどのような課題があるのかを確認することが大切です。
業務量や組織風土などが主な原因の場合は、研修以外の改善策も必要になります。
- 管理職だけでも受講できますか
-
管理職向けのアサーション研修も可能です。
特に、部下への指示、フィードバック、注意、面談、異なる意見の受け止め方などは、管理職研修と相性のよいテーマです。
管理職には部下より大きな権限があるため、「どう主張するか」だけではなく、部下が安心して質問や異論を伝えられる受け止め方も含めて扱うことが重要です。
- アサーション研修でハラスメントを防げますか
-
アサーション研修が、ハラスメント防止を考える一つのコミュニケーション教育として役立つ場面はありますが、研修だけでハラスメントを防げるとは言えません。
ハラスメント対策には、組織としての方針、相談窓口、適切な対応、管理職教育など、別の取り組みも必要です。
また、被害を受けた人に「もっと上手に断るべきだった」と責任を負わせないことが大切です。
- オンラインでもアサーション研修はできますか
-
オンラインでも、講義、個人ワーク、少人数での対話などを組み合わせて実施できます。
ロールプレイを行う場合は、少人数のグループに分けられる仕組みがあると進めやすいでしょう。
対面かオンラインかだけで判断するのではなく、参加人数、研修時間、演習方法、参加者同士の関係性などを踏まえて設計することが重要です。
- 一回の研修で効果はありますか
-
一回の研修でも、自分の伝え方を振り返ったり、新しい表現を知ったりするきっかけにはなります。
ただし、コミュニケーションには長年の習慣や職場環境が関係しているため、一度受講すれば誰でもアサーティブに話せるようになるとは限りません。
研修後に実践する場面を決めたり、管理職が受け止め方を見直したり、定期的に振り返ったりすることで、学んだ内容を職場で活用しやすくなります。
まとめ
アサーション研修は、単に「上手な話し方」や「自己主張の方法」を覚えるためのものではありません。
自分の意見や要望を必要以上に抑え込まず、同時に相手の立場や考えも尊重しながら、仕事に必要な対話を進める方法を学ぶ研修です。
企業で導入する場合は、
- どのコミュニケーション課題を改善したいのか
- 誰を対象にするのか
- どの職場場面を練習するのか
- 管理職はどのように関わるのか
- 研修後にどう実践するのか
まで含めて設計することが大切です。
また、話し方の研修だけで職場の問題を解決しようとしないことも重要です。業務量、人間関係、権限差、組織風土、ハラスメントなどに課題がある場合は、それぞれに必要な職場側の対応を考える必要があります。
アサーションを活かしやすいのは、「もっと上手に言いなさい」と社員だけに変化を求める職場ではなく、伝える側と受け取る側の双方が対話を大切にできる職場です。
研修を検討するときは、話し方の型だけを見るのではなく、「この職場で安心して必要なことを伝え、話し合えるようにするには何が必要か」という視点から内容を設計してみてください。


